黄緑色のチャイナ服を着た美少年である、頭には大きな帽子を
被っている。帽子には金色の鈴が付いていて、時折チリンと鳴る。
チャイナ服といっても、かなり変形したチャイナ服だ。裾の部分が
極端に長くなっていて大きな太極図が描かれているのだ。ズボンは
幅広のズボンで色はカーキ色。髪の毛は明るい橙色である、髪を
何か布のような物で二つに分けて縛っていた。まるでシッポのようだ。
顔はまるで女の子のように可愛い、正統派ロリショタ系である。大きく
丸い青目や、その言動のせいか随分と子供っぽくみえてしまう。
「ベルフェゴール!僕の倒す敵さんはー?」
護衛兵が全員倒れているのを見て、マモンはつまらなさそうに言う。
「・・・ごめん・・・倒した」
若干申し訳無さそうにベルフェゴールが言葉を返す。
「えぅー・・・僕全然敵さん倒してないよぉ・・・」
しょんぼりとした様子で黄砂に座り込んだ、ルシフェルはやれやれと
いった表情でその様子を見届けるとたった一人音楽にやられなかった
大将に、剣先を突きつけた。大将は総指揮官ではなかった。ルシフェルの
与り知らぬ悪魔である、ルシフェルは迷う事無くその首を切り落とした。
「・・・・・・さっさと土に還れ、目障りだ。」
久しぶりに決め台詞を口にして、ルシフェルは大将の首を持ち上げた。
「終わったぞ、ベルフェゴール。」
ルシフェルの言葉にベルフェゴールは答えない、言葉の代わりに
聞こえたのは喇叭の音色だ。勝利を知らせる勝ち鬨の音色―――。
喇叭の音色は障害物の無い黄砂に響き渡る、残された反乱軍の
残党は馬を引き上げ後退して行く。しかし誰もその後を追おうとはしない。
ルシフェルは剣をしまうと大将の首を乱雑に持ちながら疾駆してきた
道を引き返し始めた、マモンとベルフェゴールもルシフェルに続く。
先程まで居た場所に戻ると、ヴェルゼヴァウとアスモデウスが待っていた。
「追わなくて良いのか?」
ルシフェルはヴェルゼヴァウ目がけて大将の首を放り投げる。
ヴェルゼヴァウは投げられた首を上手くキャッチすると、鉄で出来た
鳥籠のような物に大将の首を入れ、ルシフェルの言葉に頷いた。
「ルシが目覚めたということを判らせる為にも、あえて
 生かした。これでしばらくは攻撃の規模が小さくなる。」
流石は軍師である、目先の事象より、今後を優先している。
「そうか・・・で?ソレは誰だ?」
ルシフェルがソレ扱いしたのは大将だった。
「ソロモン72柱、48番目の総裁、ハーゲンティだ。」
ヴェルゼヴァウの返答に、ルシフェルはアスモデウスを見やる。
「俺っちは知らねーよこんな奴、確かに俺っちも72柱の
 一人だったけどさ。コイツとは面識ねーよ、本当だぜ?」
だった―――アスモデウスは確かに過去形を使っていた。
という事は、今現在はソロモン72柱ではないというのだろうか。
「フン・・・まぁいいさ、ともかくコイツはサタン様に献上
 するとして・・・・・・倒した兵士はいつも通りの処置か?」
ルシフェルの質問にヴェルゼヴァウが軽く頷く。そして、まるで
その言葉を待っていたかのように、空から美女が舞い降りてきた。

「終わったんなら、誰か迎えに来て
 くれたっていいじゃない、ケチね」

妖艶な声音でそう言った美女は、ルシフェルの隣に落り立つ。
「あら、ルシ・・・起きてたの?」
ルシフェルに対して、艶やかな微笑みを向ける美女。
髪は血のように毒々しさが混じった赫色、瞳の色も同じだ。
髪は長く、膝に届きそうなほどだ。時々見える耳には薔薇のイヤリングをしている。
服はかなり露出度が高く、おまけにボンテージ風。鋲がいたるところに打ってあった。
肩には赤い薔薇が描かれた肩当があり、手は黒く長い手袋で覆われている。
これにも鋲があった、下はスカートで、腰には茶色いベルトをゆったりとかけている。
脚はブーツで、コレにも鋲がある、極めつけには、背中にちょこんと悪魔らしい
羽が生え、お尻から先のとがった尻尾まで生えているのである。まさしく、悪魔的な
格好であると言えよう。それこそ、ハロウィンの仮装のようでさえある。ルシフェルと
共に、ヘカテの魔の手から地球を救った魔性の女―――メフィストフィレスだった。
「・・・貴様、俺がいつ起きるか判っていたくせに。」
白々しいことを言うなと、言外に告げている。メフィストフィレスは笑った。
「大体の見通しはついてたけど、正確な時間までは
 判ってなかったわ。判っていたらあんたの身体を
 戦場の真ん中に投げ入れていたかもしれないけど」
若干恐ろしい台詞を口にして、黄砂に倒れた兵士たちを見やった。
すっと、長い指先を向け―――彼女の表情は厳しいものに変わる。

『葡萄が生るのは葡萄の木、角の
 生えるのは牡の山羊。葡萄酒は
 液体、葡萄は木、木机からも
 葡萄酒が出る。自然に対する深き
 一瞥、奇蹟が現ずる、疑う勿れ。』

凛々しい声音でそう言い終わったと同時に、兵士たちの身体が燃え始めた。
「あとはあたしに任せて頂戴、あんた達はサタン様に報告を。」
メフィストフィレスが出現させた炎が、兵士たちを焼いていく。
ルシフェルは軽く頷くと、天に向けて右の手を掲げ、指を鳴らした。
「御主人〜♪もう終わったんっすか?早いっすねー。」
ヘスパウスが嬉しそうにルシフェルの傍に舞い降りる。
「当たり前だ・・・さっさと飛べ、サタン様に首を献上せねばならん。」
ルシフェルがヘスパウスの背に跨ると、ヘスパウスは一気に高度を上げる。
そして背中の大きな翼をはためかせながら、城に向けて出発した。
ヴェルゼヴァウも口笛を吹いて先程の黒馬を呼び寄せ、背に跨る。
「ヴァウー、乗せてってくんねぇ?ゾディアルの奴
 体調不良でさ、徒歩じゃこの距離はキツイから。」
アスモデウスは言いながら黒馬の背に乗っかっていた。
しかしヴェルゼヴァウは、アスモデウスを見ようともしない。
空高く飛ぶヘスパウスの姿を目で追っていた。
「・・・どーしたよ」
アスモデウスが訝しげに問う。
「・・・・・・・・・・・・なんでもない」
ヴェルゼヴァウは気になっていた、ルシフェルの事が。
明らかに以前と違っている事に気がついているのだ。

―――・・・ルシ・・・―――

ヴェルゼヴァウは空から視線を落とし、馬を走らせた。






          

※作中の『ファウスト』の一節は、岩波文庫より発行された物を参考にしました。





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