鮮やかな色彩が、目に飛び込んでくる。
人間ならば絶対にありえない青色の髪の毛が、ゆらりと
風に揺れていた。そう、青色である。それもまるで絵の具を
チューブから出したかのような原色そのままの青色である。
その鮮やか過ぎる青色の髪を、高い位置でポニーテイルにした
美青年は、ルシフェルの高い鼻をグニっと力強くつねった。
「・・・相変わらずだなぁ、アスモデウス。」
ニヤリと、どこか嬉しそうに笑ってルシフェルは言う。
アスモデウス―――そう呼ばれた青髪の美青年もこれまた
妙な格好をしていた、まるで中世の貴族もかくやという衣装を
着ている。上着の色は鮮やかな紫、少し黒味を帯びた赤色の宝石が
首元に光っている。おそらく白いネッカチーフを留めるための物だろう。
下に着ているのは白いワイシャツだ、腰には赤い腰巻が巻いてある。
ズボンは暗めの黒―――まさに中世の貴族そのものといった格好だ。
顔は美男子・・・だがルシフェルのようにヴィジュアル系という訳でも
ヴェルゼヴァウのようにクール系という訳でもない。橙色の大きなタレ目と
高い鼻があいまって、なんともバタ臭い・・・というか、女タラシな顔立ちだ。
美形ではあるもののルシフェルやヴェルゼヴァウと違って、とっつき易いと
いうのか、親しみやすい印象を受ける。気のいい兄ちゃんといった風である。
「うっせー、お前さんこそ相変わらずだよなー。
 俺っちに面倒事押し付けやがって、ちったぁ
 大将取り以外の事も考えて行動しろってのー。」
ぶつぶつと文句を言いながら、ルシフェルの鼻から手を離す。
「ヴァウ、歩兵の方はあらかた済んだみてーだ。
 マモンとベルフェゴールがコッチに向かってる
 全員で掛かれば、七万の騎馬兵も片付くだろ?」
アスモデウスの台詞を聞いて、ヴェルゼヴァウは鎌をしまった。
ここからは、武人としてではなく軍師としての本領を発揮する時間である。
「ルシ、あの大きな軍旗を掲げている馬が居ろう、おそらく
 あれが大将だ。我とアスモが周囲の騎馬兵を一掃する
 マモンとベルフェゴールが合流したら、二人と共に大将の
 もとへ一気に攻め込め。護衛兵は二人に任せて構わない。」
言外に、大将にのみ集中しろと言っているのが解った。
ルシフェルはそれを聞いて満足そうに頷き、そして剣を天に掲げた。

「聞けぇ!反乱軍の屑ども!!今から
 貴様らの大将の首!落としに掛かる!
 俺を止めれるものなら止めてみせろ!」

声高々にそう宣言すると、脇目も振らずに大将の方角へ疾駆する。
アスモデウスとヴェルゼヴァウの両人はその様子をどこか諦めたような
顔つきで見届けていた、本来なら静かに近づいて首を落とすのが
手っ取り早く確実な方法なのだが、ルシフェルにそんな事を言っても
無駄なのだ。彼は自分を美しく魅せる事を第一に考える男なのだから。
ルシフェルの宣言により、彼の進む方角に騎馬兵たちが流れていく。
アスモデウスは嘆息しながらも、目視できないほどのスピードで騎馬兵の
前に移動していた。“六大悪魔”のうち、最もスピードが早く、技術に
長けた男―――それがアスモデウスなのである。アスモデウスは叫んだ。

「伏して見よ、Night mare!」

そう言い終わると同時に、アスモデウスの手中にサーベルが出現していた。
紫の柄に、蒼い薔薇の装飾が施されたサーベルである。ルシフェルや
ヴェルゼヴァウが使う大仰な武器とは反対に、随分シンプルな作りだった。
アスモデウスは全速力で馬を走らせる騎馬兵たちの首を、一閃する。
これだけ早く走る馬から、乗っている兵士の首だけを見事に切り落としていた。














ルシフェルは両人に面倒事を押し付けながら、迷う事無く大将の乗る馬へと
突き進んでいた。―――あまりにも静かな砂漠の只中に、突如として音楽が
流れてきたのは、ルシフェルが大将の護衛兵に斬りかかろうとした時だった。

「第四楽章・・・虚空への跳躍」

どこか気だるげな口調で、音楽を鳴らしている美少年は呟いた。
くすんだ灰色の翼を翻しながら、宙に浮かんでいる。肌の色は
美しい褐色だ。真っ白の髪の毛が一際引き立っている。服は
白いジャケットと、白いズボン、それだけだ。ジャケットの下には
シャツも何も着ていない、その為褐色の肉体が丸見えである。
髪の毛も服も真っ白なだけに、ジャケットの裾についた金色の
鎖が、目に眩しい。顔は美形―――だが、なんと言うか、実に
覇気の無い顔だった。目はタレ目だがアスモデウスのように
女タラシな印象にはならない。やる気の無い目と言うか、死んだ
魚の目の様と言うべきか・・・濃紫の瞳が、ルシフェルを見やった。
「・・・・・護衛兵は任せたって、言われたんだけど」
ヴェルゼヴァウから託された使命を、彼は忠実にこなしていた。
彼の鳴らした音楽によるものだろうか―――大将の周辺にいた
護衛兵は全員黄砂に沈んでいる。その顔には生気が見られない。
「フン・・・ベルフェゴール、貴様の音楽はズルイぞ。
 これでは、俺の活躍する場面が減ってしまう・・・。」
いけしゃあしゃあとナルシストな台詞を吐こうとしたその時。

「ルシフェルー!!おはよー!」

どかーん。
激しい勢いで、ルシフェルの身体に男の子が飛び込んできた。
「・・・・・・・・・マモン・・・離れろ」
ルシフェルは多少イラっとした顔つきでその少年を引き剥がす。
マモン、そう呼ばれた美少年は頬をぷくぅと膨らませていた。
「むーぅ・・・久しぶりに会えて嬉しいのにぃ」
つまらなさそうにそう言うと、ルシフェルからピョンと離れた。
ルシフェルは少し照れくさそうにマモンに微笑んだ。




          





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