「フン・・・ルシア、さっさと脱出するぞ。」
気恥ずかしそうにそう言って、ルシアをヒョイと持ち上げる。
ルシフェルの両の腕に抱きかかえられたこの状態は・・・。
「おっ・・・お姫様・・・抱っこ」
ルシアは思わず言葉にして、そして赤面する。
「おっ下ろしてくださいぃぃぃ!!じっ自分で
 歩けます!下ろしてくださいってばぁぁっ!」
ジタバタともがく、ルシフェルは意地悪く笑った。
「抱えて走った方が速く移動できる」
困惑するルシアの顔を至極楽しそうに見ていた。
ルシフェルの言う事は正しいだろう、ルシアを連れて
走るより、抱きかかえた方が速いに決まっている。
人間のルシアと堕天使のルシフェルでは身体能力が
違いすぎるのだ、連れて歩けばルシアに歩を合わせる
事になり必然的にスピードが落ちる。それよりはずっと
合理的な方法である、ルシアは恥ずかしそうに俯いた。
「フン、コレの何が恥ずかしいのだ。」
アッサリとそう言ってのけるルシフェル、彼に乙女心に
ついて説明しても、きっと理解出来ないだろう・・・。
「ヘスパウスが何処に居るか判らんが・・・
 ともかく広い場所まで移動する、行くぞ。」
両の腕に力を込め、地を強く蹴って疾駆する。
ルシフェルが動くたびに、長い銀の髪と漆黒の外套が
揺れ動き、うねる。ルシアはルシフェルの端整な横顔を
ジッと見つめていた―――長い間ずっと見ていなかった
ルシフェルの美しい容姿に、ルシアはただ見とれていた。
「居たぞー!侵入者だー!!逃がすなー!」
兵士の声だ、見つかってしまったのか―――いや違う。
ルシフェルの居る方向とは違う場所に向かっている。
「あの莫迦者め・・・何をしておるのだ!」
若干イラついた口調でそう言うと、ルシアを片腕で
抱え、右の手に大剣を握り締め―――再び疾駆する。
「おい!後ろを見てみろ!」
ルシフェルの声に兵士は振り向く、しかし遅い。

ズパァァァァッ

兵士の胴は、真っ二つに切り裂かれていた。
吹き飛ぶ血―――崩れ落ちてく身体・・・ルシアは
あまりの光景に、言葉を失っていた。しかし、目を
背けようとはしなかった。ルシフェルは今までもずっと
同じ事をしてきた、ルシアはそれでも良いと言った・・・。

だから、目を背けることは、それだけはしなかった。

「ヘスパウス!!何をしている!」
ルシフェルの視線の先に、ヘスパウスが居た。
苦しそうな表情で、地面に座り込んでいる。
「御主人・・・面目ないっす・・・」
大量に力を使い、動けなくなったようだ。
「大莫迦者めが・・・変化は?出来ないのか?」
ルシフェルの言葉に、ヘスパウスは泣きそうになる。
「出来なくないっすけど・・・時間がかかるっす
 ・・・最低でも10分は・・・今すぐは無理っす」
半泣き顔でルシフェルに答えた、ルシフェルは
嘆息しつつも、ヘスパウスの頭を撫でてやった。
「10分ぐらい稼いでやる、さっさとしろ。」
そう言うと、ルシアの身体をそっと地面に下ろした。
「そこから動くな」
ルシフェルは大剣を構え、二人から遠ざかる。
その眼前には、何万人という兵士達が待っていた。

「ルシフェル・ディルフェルドル!神の敵め!」
「神逆者め!異端児め!」
「神の名を穢す忌まし児め!」

集まった兵士達が口々にそう言う。
ルシフェルはその言葉に、口の片端を吊り上げた。

「それで?」

ルシフェルの放った短い一言に、兵士達は凍りつく。
「くっ・・・!怯むな!奴は負傷している!全員で
 かかれば勝ち目はある!皆の者!行くぞぉぉ!!」
誰かの掛け声と共に、兵士達が一斉にルシフェルに向けて
襲いかかる。確かにルシフェルは深手を負っている・・・
このままでは危ない―――ルシフェルが大剣を振ろうとした

その時

“死神の聖域”(デス・サンクチュアリ)!!」

声と共に、何万人という兵士達の立つ地面から、幾本もの
刃が飛び出てきた。兵士達の身体は刃に突き刺さり、辺り
一面が血の色に染まった―――ルシフェルはフッと苦笑する。
「レオンめ・・・借りを返したつもりか」
ルシフェルは周囲を見渡してみる、しかし、レオンらしき姿は
何処にも見当たらない―――諦めた表情で二人の元へ戻った。
「ヘスパウス、まだか?」
ルシフェルが時間を稼いでいる間、ヘスパウスは意識を
集中し、ドラゴン状態に変化しようとしていた。しかしまだ
時間がかかるようである―――彼女の周囲にはボンヤリと
紫色の光が渦巻き、その姿は靄に包まれているようだった。
「―――っ・・・!」
突如、ルシフェルがグラリと身体を崩した。
慌てて、ルシアがその身体を抱きかかえる。
「ルシフェルさん!大丈夫ですか?!」
ハァハァと息を吐き、ゆっくりと地面に座り込む。
「・・・すまん、少し・・・血を流しすぎた。」
苦しそうに顔を歪ませる、ルシフェルの脇腹からはまだ
血が溢れ出している―――血が止まる気配は、無い。
「ルシフェルさん・・・」
ルシアはルシフェルの身体を、しっかり抱きしめる。
「心配するな・・・大丈夫だ」
ルシフェルはルシアの栗色の髪にキスを落とす。
「コレぐらいでは死なん、だからそんな顔をするな
 約束したろう・・・?俺の傍で、笑っていろと。」
ルシフェルのその言葉に、ルシアは何も言えなくなる。
泣きそうな顔を見せないように、彼の胸に顔を埋めた。

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!
 リア充ウゼェェェェェ!」

ヘスパウスがドラゴン状態に変化しながら、言った。
「なんっすか!!ウチの真ん前でイチャイチャ
 しくさって!このバカップル!イチャつくなら
 もっと人目につかない場所でしなさいっす!!」
ヘスパウスはギャーギャー言いながら背中の翼を広げた。
「さっさと乗るっす!」
ルシフェルは少しつまらなさそうに舌打ちして
ヘスパウスの背中に乗る、ルシアもその後に続いた。
「ルシア、俺の手を離すなよ。」
ルシフェルが小さい声でそう言ったのを、ルシアは聞き逃さなかった。







          





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