ヘスパウスが勢い良くギターをかき鳴らす、ベース君と
ドラムス君も縦ノリしながら楽器を器用に弾いている。
コーラス君たちもかなりノリノリで歌う準備をしている。
今までの曲と比べて、前奏部分が長い、ロック調の曲だ。
ヘスパウスは踊るようにステップを踏みながら、歌いだす。

貴方と、初めて出会ったあの日を今でも
昨日の事のように、覚えているの。
貴方は、とても美しくて、まるで
煌めく光のようで、目が眩んでしまった。

痛む途だと、知っているけれど
それでもアタシは、貴方と共に
生きる事を選びたい、だから。

導いて!Lux!アタシだけの光よ、どうか!
未来が絶望だけだとしても、照らして!Lux!
ただ貴方を信じている、アタシだけのLux・・・。

アナタはいつも、アタシの事を愛してくれる。
大切なんだと耳元で囁いてくれるの。
貴方はとても、輝いていて、まるで
空に浮かぶ月の様で、心が震えてしまった。

苦しむ途だと、解っているけれど
それでもアタシは、貴方と共に
生きる事を選びたい、だから。

瞬いて!Lux!アタシだけの光よ、どうか!
未来が苦難だけだとしても、煌めいて!Lux!
ただ貴方を愛している、アタシだけのLux・・・。

離さないでいて、その手をどうか、ずっと。
変わらないモノなんて、無いかもしれない
けど、この想いだけはどうか、ずっと・・・。

導いて!Lux!アタシだけの光よ、どうか!
未来が絶望だけだとしても、照らして!Lux!
ただ貴方を信じている、アタシだけのLux・・・。
瞬いて!Lux!アタシだけの光よ、どうか!
未来が苦難だけだとしても、煌めいて!Lux!
ただ貴方を愛している、アタシだけのLux・・・。

ずっと、傍に居て・・・アタシだけのLux。

歌が終わって、ヘスパウスは勢い良く腕を振りぬいた。
天に向けて人差し指を突き出したポーズをとっている。
息は切れ、表情は少し苦しそうに見える。ヘスパウスの
眼前に居た兵士達は誰一人として動かない、全員が
床に伏している―――ヘスパウスはニヤリと笑った。
「にゃーっはっはっはっは!思い知ったかっす!」
腰に手をあて、ふんぞり返る、相当嬉しいようだ。
「いやー、流石にこの数はちょっとキツかったっす
 でも!そこを何とかする辺り流石っすよねぇ〜!」
まさに自画自賛である、しかしベース君もドラムス君も
コーラス君も何も言わない、じっとヘスパウスを見ている。
「・・・褒めろよ・・・っす」
半眼になりながらヘスパウスはギターをしまった。
それと同時に、輝いていたステージも、ベース君も
ドラムス君もコーラス君も・・・全てが消えてしまった。
「さぁて、そろそろ御主人を助けに行くっすかねー」
ヘスパウスは、倒れている兵士を踏みつけながら進みだした。




















燃え盛る炎を、ルシアは見ていた。先程まで聞こえていた
電子の音はもう届かなくなってしまった、ルシアには今何が
起きているか、判じるすべがない。じっと、牢獄の小さな
窓から見える景色を見つめていた―――外はとても暗い。
時折、遠くから兵士達の話す声がしてくる。しかし内容は
良く解らない、「神逆者」「反乱分子」「異端児」。そんな
単語が良く飛び交っている、誰かが不法侵入したという
事は、何となくだが解った―――しかし、誰か判らない。
ルシアは窓の外を見るのを止め、ベッドに座り込む。
先刻までの騒がしさが嘘のように・・・とても、静かだ。

ふと、音が聞こえてきた。

足音である、引きずるような足音が、こちらへ向かっている。
こんな時間にいったい誰が―――ルシアは身を固くする。
足音と共に、カラカラと金属を引きずる音も聞こえてきた。
嫌な臭いがする―――血の臭いだ。足音の方向からである。
ルシアの身体は小さく震えだす、暗闇の向こうに、何か居る。

「待たせたな・・・ルシア」

えっ、とルシアは小さく呟いた。聞き慣れた美しい声音・・・。
ルシアは知っている、この声の主を、とても良く知っている。
牢獄の小さな窓の向こうに、その存在はジッと立っていた。
銀色の長い髪と、血の様に赫い瞳の絶世の美男子―――。

「ルシフェル・・・さん」

ルシアは泣きそうになるのを堪えて、窓に近づく。
「ルシフェルさん!ルシフェルさん・・・!
 会いたかった・・・ずっと、あたし・・・」
ルシフェルは、小さな窓からそっと手を差し伸べる。
零れ落ちそうなルシアの涙を、細く長い指で拭った。
「泣くな、ルシア・・・俺も同じ気持ちだ」
ルシフェルの言葉に、ルシアは小さく頷く。
「ルシフェルさん・・・それ・・・血・・・!」
脇腹から滲み出す鮮血に、ルシアが気づいた。
ルシフェルは少し苦しそうに笑った。
「問題ない、この程度では死なん・・・それよりも
 ルシア・・・俺がココに来た理由は・・・解るな」
その言葉に、ルシアは答えない。

「お前を攫いに来た」

なんの躊躇いもなく、ルシフェルは言い切った。
「だが、本人の了承も無しでは駄目だろう・・・
 ルシア・・・これから俺が話すことを真剣に
 聞いて欲しい、その上で答えを聞かせてくれ。」
空に輝いていた月は、黒い雲に覆われ隠れている。
ルシフェルが残した血の跡も、闇夜に隠され見えなくなった。
「ルシア、お前は言ったな・・・悪魔でも良いと
 俺を愛すると・・・嬉しかった、だが・・・
 コレから先も俺と生きると言うなら、覚悟が
 必要だ・・・俺は、悪魔族の中でも最高位の
 堕天使だ・・・俺の手は、何億という数多の
 命を奪ってきた手だ・・・これからもずっと
 其れは変わらない、俺が生きている限りはな。」
ルシアはルシフェルの言葉を、静かに聞いていた。
ルシフェルの表情は、少し苦しそうだった。

「ルシア、それでも・・・
 俺を愛してくれるのか?」

空は、まだ晴れない。







          





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