ギターと同じ名前の曲―――明るいテンポのロックだ。

碧天に舞い響け!Blue Sky butterfly!
光輝く蝶よ!蒼穹に舞い踊り、羽ばたけ!

遥か、地平線を超えて、雲の彼方、星の大地。
ざわめく海、茂る草木も消えて・・・そして
見えてくるのは、君と約束したアノ場所・・・。

碧天に舞い響け!Blue Sky butterfly!
光輝く蝶よ!蒼穹に舞い踊り、羽ばたけ!
美しすぎる夢の中、揺らめく心の狭間・・・
守りたい全ての為に、超えてゆけ!今こそ!

綺麗な言葉で語られた過去も、まだ見えない
明日の日も・・・空は変わらずに輝いていて
廻り来る季節の中で、君に出会えた奇蹟を
確かに強く抱きしめて・・・僕と共に行こう!

碧天に舞い響け!Blue Sky butterfly!
光輝く蝶よ!蒼穹に舞い踊り、羽ばたけ!
産まれ来た場所、溢れ出すその想い・・・
救いたい全ての為に、超えてゆけ!今こそ!

碧天に舞い響け!Blue Sky butterfly!
光輝く蝶よ!蒼穹に舞い踊り、羽ばたけ!
美しすぎる夢の中、揺らめく心の狭間・・・
守りたい全ての為に、超えてゆけ!今こそ!

超えて・・・超えて・・・今こそ・・・

歌い終わったヘスパウスはグッタリと座り込む。
しかし、兵士達はどんどん増えていくばかり・・・。
「うぇぇー・・・シンドイっす・・・」
くすんくすんと泣きながらフラフラと立ち上がる。
「もうこうなったら・・・アレを歌うしかないっすね」
ヘスパウスは右の指をパチンと鳴らした。
ステージの後方が、突如としてせり上がり始めた。
そしてそのステージの上には―――ベース君と
ドラムス君に良く似た紫色の生物が、二匹立っていた。
「ついにコーラス君の登場っすよ!拍手!」
ヘスパウス一人の拍手が、空しく響く。
「・・・・・・・・・・・・・・ヤレよ・・・っす」
ベース君及びドラムス君をギロリと睨んだ。
「ふぅ・・・さぁーて、ついに出来立てホヤホヤの
 新曲をお披露目するっすよぉ!!この曲の名前は
 “Lux”!ラテン語で『光』を意味する言葉っす!」
右の人差し指を眼前にズビっと向けた。














ビチャリ、と、嫌な音がした。赤い血が溢れ、流れる。
ルシフェルは巨大庭園を抜け、ルシアの捕らえられている
牢獄に向かっていた―――しかしその途中で近衛兵に
見つかってしまったのだ、しかも二十人、かなりの人数だ。
先刻の音は、ルシフェルの脇腹が切り裂かれた音である。
苦しそうに顔を歪ませている、傷は深い。
「やっと見つけたぞ!下劣な神逆者め・・・!神界に
 不法侵入するなんて・・・なんという狼藉者だっ!
 しかも大勢の兵士達を惨殺して・・・!神の敵めっ」
近衛兵の一人が、ルシフェルに食って掛かる。
「堕天使め!穢れた反乱分子め!」
ルシフェルは奥歯をギリギリと噛み締める。

―――何も知らぬ癖に―――

ルシフェルはそれを言葉にしようとしない。
言っても、理解されるはずが無いからだ。

本当の事を言っても、どうにも為りはしない。
神界に居る奴らは、上の連中を信じきっている。
絶対的な信仰を寄せている連中が、全ての元凶で
全ての黒幕だなどと言っても、世迷い事と言われて
嗤われるだけ―――語るだけ無駄だ、全ての真実を
俺は知っている、それで良い。真実は俺たちに在る。

ルシフェルは痛みを堪えながら、剣を握り締める。
目に捉えられぬ程の凄まじい速さで、近衛兵たちの首を
次々に落としていく―――あっと言う間の出来事だった。
「はぁ・・・はぁ・・・ぐっ・・・くそっ・・・」
ルシフェルは力なく膝をつく、血が止まる気配は無い。
「ルシア・・・!今・・・行く・・・うぐっ・・・」
ルシフェルの視界はぼやけていく、このままではマズイ。
「はぁ・・・!はぁ・・・!」
ルシフェルは地面に腕をつき、なんとか身体を支える。
脇腹から溢れ出す血は、だんだんと広がっていく。
腕に力が入らない、足が震え、呼吸が苦しくなる。
「・・・ルシア・・・!」
か細い声で紡いだ名前―――ルシフェルは地面に倒れる。

終わるのか・・・?ココで・・・?駄目だ・・・
ルシア、ルシアを・・・助け・・・くそっ・・・
身体が動かない・・・意識が・・・遠・・・く・・・

ぼやけていく視界、揺らめく意識―――微かな力を
振り絞り、ルシフェルは自身の心臓部分を強く掴む。
“刻印”を消されない限り死ぬ事はない身体では
あるものの、この場所で行き倒れる事は避けねば
ならない―――なにせ神界だ、捕まれば殺される。

―――思い出せ―――

ドクリ、ドクリと、鼓動の音が聞こえる。


憎しみを、嘆きを、怒りを、絶望を、怨嗟を。
あの時味わった全てを思い出せ・・・!!
ココで終わる・・・?冗談ではない!俺には
果たさなければならない事があるはずだ!
あの憎しい売女どもに、復讐せねばならぬ!
あの時奪われた全てを取り返さねばならぬ!
失った真実を、明かしてやらねばならぬっ!
ココで終わるわけにはいかない、俺は誰だ?
ルシフェル・ディルフェルドルだ!!誇り高い
サタンの眷属、“六大悪魔”の一員!その俺が
このような場所で終わるなど、在ってはならない!

ルシフェルは血の海から立ち上がった。
その表情は、まるで修羅のように険しい。
ルシフェルは切り殺した近衛兵の服を破り取ると
切り裂かれた脇腹にキツク巻きつけた、これで
しばらくは止血が出来る―――だが長くは持たない。
一刻も早くルシアを助け出し、“失望の楽園”へ
戻らなければ、出血多量で死にかけになってしまう。
大剣を引きずりながら、ルシフェルは歩き出す。
歩いた道筋には血の跡が残っている、これではすぐ
見つかってしまう―――しかし、ルシフェルは止まらない。
「ルシア・・・!もうすぐ・・・もうすぐだ・・・」
ルシフェルの赫い瞳は、揺らぎながらも真っ直ぐに輝いていた。







          





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