ヘスパウスが叫ぶと同時に、手の中にあの鈍い青色のエレキギターが
出現していた。彼女の声を聞きつけた護衛兵たちが一斉に集結する。
「へっへーん!こっちっすよ!」
ピョンと飛び跳ねながら、西の端へと移動してゆく。ルシフェルの
命令通り、周辺の兵士を集めながら移動する。ヘスパウスはニヤリと
笑うとギターアンプの電源を入れた、電子の音が周辺に鳴り響く。
「出て来いっす!ベース君!ドラムス君!」
呼びかけと共に出現したのは、体長30cm弱の小さな生物だった。
姿は猫に似ている、水色で耳がピンと立ってる方は額に「ベース」と
書かれ、黄緑色で耳が垂れてる方は額に「ドラムス」と書いてあった。
「ベース君!ドラムス君!燃やしちゃえっす!!」
ヘスパウスがビシッと右の指を突き出す、その示す先へ両者が火を吹いた。
たちまち周囲の建物が燃えてゆく―――黒々とした煙が立ち昇っていく。
ヘスパウスは混乱に乗じて更に移動を続ける、集結していた兵士達は
救出と確保の二班に別れる。どこからとも無く警報の鐘が鳴り響いた。
「・・・ちょっとヤリ過ぎたっすかね・・・?」
ヘスパウスは若干反省しながらも、西へ西へと進んでいった。













「・・・あの莫迦者め・・・」

西の方角から立ち昇る煙を、ルシフェルも確認していた。
その手には、血みどろになった兵士の死体が握られている。
ルシフェルは事切れた兵士を投げ捨てると、息を殺しながら
移動を再開する。現在地は中央会議堂のすぐ傍にある巨大
庭園だ、ここを抜ければ高位神の宮殿がある。その少し下に
ルシアの捕らえられている牢獄がある―――ただ、この場所は
危険が大きい。高位神の宮殿がすぐ近くにある為警備も厳重なのだ。
しかし、巨大庭園の中は隠れる場所も多い。最も確実に牢獄へと
近づくには、ここを通るしかない。庭園周囲で見張りをしていた兵士や
宮殿付近に駐在していた近衛兵士たちも、西側へと流れていっている。
ルシフェルは素早い動きで庭園を移動する―――全ては計画通りだ。

「何を為さってらっしゃるのです
 ルシフェル・ディルフェルドル」

凛とした、冷たい声音―――ルシフェルの眼前に、ティアナが居た。
白薔薇の咲き乱れる巨大庭園の中心部に、彼女は立っていた。
月光に照らし出されたその姿は、さながら白い薔薇のようであった。
「ここは神の国、貴方のような下賤な者が立ち入って
 いい場所ではありません、お帰りなさい、最終獄へ。」
ルシフェルはゆっくりと立ち上がり、剣を構え直した。

「退け」

強く、鋭い口調でソレだけを言う。
ティアナはルシフェルの気魄に押される事はない。
優雅な足取りでルシフェルに近づいてくる。
「私をなんと心得ます」
彼女が言い終わると同時に、ルシフェルの身体は地に伏した。
「ぐっ・・・うぐっ・・・」
不可視の圧力がルシフェルの身を縛り付ける。
「私は“破壊神”・・・貴方のような堕天使が叶う相手では
 ありません、それが解らない貴方では無いでしょう・・・?」
圧倒的な力の差―――ルシフェルは動く事さえ出来ない。
「ルシフェル・ディルフェルドル、貴方を神界法第67項
 不法侵入及び第32項殺害罪及び第46項建築物損壊の
 容疑で逮捕致します、裁判、神問会議は行ないません」
ティアナは不可視の力でルシフェルをズリズリと引き摺る。

「サタン様は容赦為さったぞ」

自由を奪われたルシフェルだったが、心は折れていなかった。
サタン、という単語にティアナは思わず反応してしまう。
「・・・まさか」
ありえない、言外にそう言っていた。
「俺が嘘をつくと思うのか?売女」
ニヤリと、意地の悪い微笑みを浮かべた。
「・・・何故です」
ティアナの身体は少し震えている。
「サタン様は貴様と違って高潔な精神をお持ちだからなぁ
 ・・・薄汚れた貴様などには、永劫解りえないだろうな」
嘲笑うように顔を歪ませる。
「・・・・・・・・・・・。」
ルシフェルの鋭い言葉に、ティアナは答えない。
ただ―――彼女の身体は小さく、震えていた。
「ルシアを返せ」
ルシフェルはティアナの面を睨みつける。
「・・・出来ません」
ティアナは震える声音で言う。
「ハン!強情な売女だ!」
ルシフェルはティアナの心を抉るように言い放つ。
「・・・ルシフェル」
ティアナは身体の震えを抑え、ルシフェルに向き直る。
「今から話す事は・・・私の
 独り言です、解りましたね」
月光の中―――ティアナの表情は凛として冷たかった。













ヘスパウスは逃げていた、必死に。兵を陽動せよと言われて
その通りに動いたのだが・・・やはりあの放火が効いたのか
予想以上の兵士が追いかけて来ていた。ハッキリ言ってピンチだ。
「うぇぇぇぇどっどこか狭い部屋ぁぁぁぁないっすかぁぁぁ」
半泣きで必死に逃げるヘスパウス、ベース君とドラムス君は
追いかけてくる兵士に火炎を浴びせ続けている。しかし効果は薄い。
いくら倒しても次々に兵士が現れるのだ、これではキリがない・・・。
「・・・!あの部屋なら!いけそうっす!」
ヘスパウスは一目散にその部屋へ駆け込む、どうやら応接間のようだ。
息を整えているうちに、兵士達が部屋に駆け込んでくる。あっと言う間に
部屋中兵士達で埋め尽くされた、ヘスパウスは部屋の中心にあった丸い
テーブルに登っていた。ニヤリ、と笑うとエレキギターを勢い良く鳴らす。
「さぁ!ライブを始めるっすよ!」
右の指をパチンと鳴らすと、丸いテーブルの上にステージが現れた。
ベース君とドラムス君用の楽器がセッティングされている、両者は
小さな身体で通常サイズの楽器を器用に持っていた。準備万端だ。
「テメェら!俺の歌を聴けぇ!!っす!!」
ヘスパウスの眼前には、黒い羽の生えた赤い薔薇の装飾が施された
マイクがセットされている―――ヘスパウスはマイクを引き寄せ、言った。

「まずは一曲目っす!!
 “perfect☆dream”!」






          





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