「それで、ルシフェルさんったら怒っちゃって!
 本当にプライドが高いんですよぉ、あの人!!」
レオンはルシアの話に大きく頷く。
「だよなー!俺もアイツに苦労させられたよ・・・」
二人とも、ルシフェルに対する不満がたくさん有るようだ。
「アイツさぁ自分の顔に自信持ち過ぎだよな!
 そりゃ美形だけど、それを鼻に掛けすぎって
 いうかさー自慢しすぎなんだよアイツって!」
もはや過去話というか愚痴大会である。
「そうですよねー!あたしの鏡勝手に借りるし!
 お店の手伝いしてる時だって、ショウウィンドウに
 映った自分の姿を、何十分も見てるんですよ!!!」
レオンが許可を貰って帰って来てからというものの
二人はずっとルシフェルの愚痴で盛り上がっていた。
傲岸不遜で唯我独尊なルシフェルに対し、不満が
募るのは仕方がない事だろうが・・・なんというか
こうもなると、ルシフェルが少しだけ不憫な気がする。
「うっわー!ねぇわー!ナルシストすぎだろ!」
レオンはブルブルと震えてみせる。
ルシアは終止嬉しそうだ、誰かと話すのは久しぶりだし
レオンはルシフェルの知り合い、しかも快活で明るい。
普段の苦しそうな顔は微塵も見せない。

「何をなさっているのですか
 レオン・ブラックウィング」

ルシアに食事を届けに来た、あの黒髪の女性だった。
レオンの顔は、急に真剣な表情に変わる。
「よぉ、ティアナ・・・久しぶりだな」
黒髪の女性―――ティアナはゆっくりと二人に近づいて来る。
「お会いできて光栄です、しかし、どうして貴方が
 このような場所に居られるのですか、貴方は
 “救済神”様の庇護のもとにあるはずですわよ。
 それに、長時間の外出は原則禁止されていますわ」
ぴしゃりと有無を言わせぬ口調で言い切った。
「うっせーなぁ、許可なら貰ってきてるよ。」
レオンはティアナの方を見ようともしない。
「そうですか・・・ですが、彼女は面会謝絶の
 極秘事項です。お帰りください、今すぐに。」
レオンの後ろでティアナは立ち止まった。
煙草の紫煙が揺らめき、煙草の臭いが漂う。
「・・・まだ、その様なモノを嗜好なさっているのですか。」
ティアナの言葉に、レオンは表情を険しくする。
「昔と変わってねぇって言いたいのかよ」
吐き捨てるように言い放った。
「その様なつもりは御座いませんわ」
レオンは「ケッ」と毒づくと、煙草の火を地面で揉み消した。
「アンタにゃ俺を縛る資格は無い、俺はもう死んだ。
 テメェらの思惑通りに動くつもりもない、俺はもう
 テメェらの操り人形じゃねぇんだ。この子の事も
 赦すつもりはねぇぞ、俺がこの子に会いに来ようが
 何しようが文句を言われる筋合いもないね、俺は
 テメェらの為にテメェらの世界を救ってやったんだ。」
一気呵成にそう言うと、ルシアの幽閉されている牢獄から遠ざかっていく。
ルシアは少し寂しそうにその後姿を見つめていた。
「・・・随分楽しそうでしたわね」
ティアナがルシアの方に顔を向けていた。
ルシアは彼女の問いかけに答えない。
「・・・周辺の護衛を強化します、悪く思わないで下さい。」
そう言い残すと、ティアナは牢獄を後にした。
ルシアは牢獄の床にペタリと座り込み、低い嗚咽を洩らした。


















静かだ。
夜になると、牢獄の周辺は真っ暗になる。壁の小さな窓から
うっすらと月明かりが入ってくるが、充分な明かりとは言えない。
ルシアは簡素なベッドの上に横たわっていた、だが寝てはいない。
恐らく、眠れないのだろう。やっと出来た話相手をあっと言う間に
取り上げられてしまったのだ―――寂しくなるのも無理はない。
たとえ眠ったとしても、ルシフェルのことを思い出してしまう。
ルシアはベッドのシーツを強く握り締める。
「・・・なんで・・・こんな・・・」
不条理だと、ルシアは思っていた。ルシフェルとルシアは
愛し合っていたし、想い合っていた・・・なのに、どうして。

ふと、外から声が聞こえてきた。

いや・・・声というのは適切ではないかもしれない。
メロディーに乗せられた其れは・・・まさしく歌だった。

『星の空を見上げ思うの
 あなたは今どこに居るのかと
 星の空を見上げ思うの
 あなたは今何を思っているのかと

 星屑よりも速くその腕で
 私をそっと抱きしめて欲しい

 星の空を見上げ思うの
 あなたは今どこに居るのかと
 星の空を見上げ思うの
 あなたは今何を思っているのかと

 星屑よりも速くその胸で
 私をそっと包みこんで欲しい

 星の空を見上げ思うの
 あなたは今どこに居るのかと
 星の空を見上げ思うの
 あなたは今何を思っているのかと

 星の空を見上げ思うの
 あなたは今誰を思っているのかと』


聞いた事のない歌である、しかしどこか懐かしい。
暗闇の中から現れた歌の主は、レオンだった。
「・・・レオンさん」
ルシアは起き上がり、驚いた顔つきでレオンを見やる。
「これ、なんだと思う?」
レオンの手には分厚い本のような物があった。
「昔、ルシフェルと一緒に撮った写真とか入ってるんだ。」
ルシアは慌ててレオンに駆け寄る。
「良かったらアンタに貸すよ」
ニカッと、太陽のように眩しい笑顔を見せた。
「あっありがとうございます!」
ルシアは深々とお辞儀をする。
「いいよ、それより・・・眠れねぇのか?」
レオンの問いに、ルシアはコクリと頷く。
「そっか・・・じゃぁさっきの曲、もっかい歌うか。
 この歌は俺が母さんに歌ってもらった曲なんだ。
 子守唄みたいなもんだな、聞いてたらそのうち
 眠たくなるかもしれねぇしさ・・・聞いてみるか?」
優しく微笑むレオンに、ルシアは頷く。


レオンの優しい歌声が、静かな夜に響き渡る。
ルシアはその歌声に包まれて、ゆっくりゆっくり
眠りについていく。今夜はいい夢が見られそうだ。






          





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