夢を、見た。

遠い昔の、まだ俺が熾天使だった頃の・・・全てが完璧で全てが整っていた
あの頃の夢だった、あの時の俺は疑うこともせずにその全てを手に入れ
・・・・・・そして失った。そう、全ては嘘だった。俺の生きてきた全ては
俺を落としいれ無かった事にする為に造られた嘘・・・許せなかった。

いや、許す必要性など無い、許す訳にはいかない。



復讐せねば


俺を裏切り、捨て、無かった事にしたあの憎い売女どもに
復讐をせねばならない、俺を軽んじたことを後悔させて
やらねばならない。そうでなければ、死ねるはずも無い。


果たさなければ


生きる意味を、命ある責務を、成さなければ。



復讐を果たさなければ!!
























目が覚めた時、ルシフェルは一糸纏わぬ姿で自室のベッドに横たわっていた。
長い銀の髪がうねる様にシーツに広がっている、どこか虚ろげな瞳で虚空を
見つめていたかと思うと、一気にベッドから飛び上がり、部屋の窓を開けた。
外は快晴、雲ひとつ無いいい天気だ。空には鳥が飛びかっている。
ルシフェルは自身を落ち着かせるために呼吸を整えると、部屋の窓を閉めて
ベッドに腰をおろした。いつもと変わらない自身の部屋の風景、しかし・・・

「・・・今はいつだ・・・?」

そんな突拍子も無い台詞が口から零れた。・・・どうやら、ルシフェルは
昏倒してから先の記憶がまったく無いらしい。ハデスと戦い世界の危機を
救ってから何年の月日が流れたのか、ルシフェルには見当がつかない。
じっとしていても無駄な時間が流れるだけだと考えたのか、ルシフェルは
すくっと立ち上がると、自室に設けられた浴室へと足を運んだ。熱い
シャワーを浴びて身体を綺麗にすると、ベッドの脇にたたまれていた
自分の服に袖を通す。濃い紫色と黒いラインが目に鮮やかな衣装だ。
金の鎖で繋がれた3つのボタンを閉め、その上に漆黒の外套を羽織る。
手に白い手袋をはめると、部屋のドアをガチャリと開けた。リビングには
誰も居ない、誰かの気配も感じられない。ルシフェルは革靴の底を
鳴らしながらある部屋へと脇目も振らずに進んでいく、翡翠色のドアの
前に立つと何の躊躇も無く開け放った。部屋の中は相変わらず色々な物で
溢れかえっていて、足の踏み場も無い、まったくない。ルシフェルは
なんとか物を踏まないようにしながら部屋の奥へと進んでいく。部屋の奥に
木で出来た扉が見えた、ルシフェルは少し躊躇いがちに扉を開けた。
扉の先には小さなベッドがあった、ベッドのそばの丸いテーブルの上には
花瓶があり、白い薔薇が数本活けられている。しかし部屋の主は居ない。
ルシフェルは来た道を引き返すと、リビングの右側にある大きな扉を開けた。
その先にあるのは庭園である、薔薇のいい香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
ルシフェルは薔薇や百合の咲き乱れる庭園を勢い良く突っ切って行く。
その先に、白く丸い、おそらく大理石で出来たテーブルセットがあった。

そこに、その存在は居た。

眩しい陽の光に照らし出された、美しい翡翠色の髪、そこから生える七本の角。
まるで宇宙をそのまま嵌め込んだかのように輝く瞳・・・まさしくサタンだ。
サタンは優雅に紅茶を飲んでいた手を止め、ルシフェルを見やった。

「おはよう、ルシフェル。」

ニッコリと、優しく微笑みかける。ルシフェルはすぐさま傅き、頭を垂れた。
「申し訳ございません!サタン様!ハデスに頭と腕を落とされ
 そのうえ刻印を消されかけたというのに・・・それなのに
 俺を御赦しくださるなど・・・!この御恩は忘れません!!」
深々と頭を下げるルシフェルにサタンはそっと近づき、その頭を撫でた。
「いいんだよ、ルシフェル。君は良くやってくれたんだ、感謝してるよ。」
そう言ってルシフェルの顔をあげると、ギュッと抱きしめた。

「お帰り、ルシフェル。」

優しい声音に、ルシフェルは震える。
サタンは嬉しそうに微笑みながら、ルシフェルをそっと離した。
「・・・・・・どれぐらい、時間が経ったのですか。」
ルシフェルは恐る恐るサタンに尋ねる。
「人間時間で3年、いま地球は2008年8月5日だよ。」
サタンの返答にルシフェルは表情を暗くする。
「・・・・・・他の奴らは」
小さな声で洩らした台詞を、サタンは聞き逃さなかった。

「戦ってるよ」

サタンの発言に、ルシフェルは驚愕の表情を隠せない。
「良く聞くんだ、ルシフェル。君が眠っている間に反乱軍は
 よりいっそう攻撃を強めてきた、君は大きな戦力だった
 からね、狙うには絶好の機会だと思ったんだろう。今
 僕たちは劣勢に立たされている。反乱軍に組する魔族が
 どんどん増えてきているんだ・・・おそらく、アバドンが何か
 仕掛けたんだと思う。このままじゃ僕らは負けてしまうかも
 しれない・・・けど、負けるわけにはいかない、そうだよね?」
サタンの言葉に、ルシフェルは答えない。その代わり深く一礼すると
庭園を後にした。噴水のある広場に出ると、右の手をパチンと鳴らす。

「ヘスパウス!!!」

ルシフェルの呼びかけに、巨大な龍が現れた。鳥の翼を持った龍である。
「御主人〜☆お目覚めっすかぁ!待ってたっすよぉ〜♪」
嬉しそうにそう言うと、大きな背中をルシフェルに向ける。
「フン!少々居眠りが過ぎたようだ・・・ヘスパウス!他の奴らは
 どこで戦っている?早急に加勢し、今の戦況を打破するのだ!!」
いつも通りのルシフェルらしい台詞であった。
「了解っす!飛ばすっすよぉ〜☆」
大きく黒い翼をはためかせ、龍は大空へと舞い上がった。








     





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